ディスラプション再考:本来の意味とは異なる使われ方5選

Disruption®︎ディスラプション とは

近年、ビジネス書やブログなどでも頻繁に目にするようになった「ディスラプション」
実はこの言葉、本来の意味とは大きく異なる使われ方をされています。

多くの場合、「デジタルディスラプション」という文脈で、デジタル技術を利用した新規参入者が既存市場を破壊するという意味で使用されているようです。
本来は新しいものを創造するための手法を示す、建設的な意味合いの強い言葉として生み出されたものでした。

今回は、この言葉が本来の意味とは異なる意味で使われがちな5つのパターンから、ディスラプションの本来の意味を紐解いて行きます。

 

1.「ディスラプション」とは、主に新しいテクノロジーを用いて安い製品で市場を大転換させる現象のこと

特に日本では、一般的に「デジタル・ディスラプション」という言い方で、デジタル技術によって既存産業が新しいビジネスに生まれ変わる創造的破壊が起きた現象を指し、特に市場が根本から覆され、既存産業が無くなったり破壊されたりして、既存のプレイヤーにとっての深刻な脅威となるといった文脈で使われることが多いようです。

この言葉がビジネス分野に初めて公に登場したのは、1992年5月12日、TBWA社が新たな戦略的アプローチを発表するために『ウォールストリート・ジャーナル』紙とフランスの『Le Figaro』両紙に掲載したフルページの記事の中でした。

それ以前、「ディスラプション」という単語そのものは、非常に否定的な意味でしか使用されないもので、地震や疫病など、厄介で、場合によっては悲劇的な現象を指すために使われる言葉でした。

しかし、TBWA社が発表した「ディスラプション」は、一部の業界や企業で今現在起きている現象を指すものではなく、今後どうなるかを大胆に想像し未来を描くための能動的な手法のことでした。

当初はこの「ディスラプション」という概念には批判的で懐疑的な意見も多く、この言葉が持つ否定的なイメージに強い不快感を示す人も多かったそうです。

それから30年近く経ち、「ディスラプション」は、否定的なイメージや強い不快感を伴う言葉から、創造的な文脈で使われるものに大きく変わりました。
ただ、ディスラプションはテクノロジーが引き起こすものだけではありません。

 

2.「ディスラプション」または「ディスラプター」は市場を根本的に変えた新興企業を指す

ほとんどの場合、ビジネスアナリストは、「ディスラプション」あるいは「ディスラプター」という言葉を、新興企業、特に市場を根本的に変えた企業を指すために使用しています。

 

本来の意味では、漸進的で直線的な思考から人々の発想が自由になるとき、そこには必ずディスラプションが存在します。
つまり、壊す対象は市場ではなく、思考を制限する思い込みや常識(=固定観念、コンベンション)であり、それに気付くことからディスラプションが始まります。

そして、コンベンションはありとあらゆる所に潜んでいるので、ディスラプションは伝統的企業ほど起こす可能性を数多く持っているといえます。

同心円を思い描いてほしい。一番小さな円がプロダクト、その外側にビジネスモデルがあり、一番外にマーケティングと広告がある。電気自動車はディスラプティブなプロダクトイノベーションである。iTunesやAmazon、IKEA、Airbnbはディスラプティブなビジネスモデルである。私の見解では、サウスウエスト航空やボディショップはマーケティングのディスラプションの事例であり、Old SpiceやRed Bullは広告のディスラプションである。言い換えると、(バリュー・チェーンの)あらゆるレベルで「ディスラプター」となり得るのだ。(The Ways to New)

3. ディスラプションは「破壊」だ

「ディスラプション」は、コンベンションとビジョンの間に存在するギャップを明らかにして、画期的な新しいアプローチを実現するアイディアを生み出す創造的な行為であり、むしろ破壊よりも創造に重きを置くものです。

事業戦略には、少しずつ進展する漸進的な戦略と、革新的で破壊的な戦略の2種類の選択肢しかないと考える人もいます。
実際には、企業にはもっと幅広い選択肢があって、市場の破壊にまで至ることなく、ディスラプティブなアプローチで市場シェアを高めることができます。
全ての企業がUber(ウーバー)やAirbnb(エアービーアンドビー)になる必要はないのです。

 
直線的な成長が可能だった時代には、まず「ビジョン」があり、それを明確な目的地としてロードマップを描くことは比較的容易でした。
そのため、「コンベンション」を疑い、それに意義を唱える、より「破壊」に近い意味合いの方がニーズがありました。

 

しかし変化が激しく不確実性が高まっている現代では「ビジョン」を明確に設定することが難しくなっています。
そのため、ディスラプションには新しいビジョンを見出し、創造することの役割が求められています。

 

「コンベンション」を見つけ、それと向き合うということは、破壊するためではなく新しい「ビジョン」を描いたり想像したりすることを容易にするために重要になっています。

世界が絶え間なく変化しているので、私たちのものの見方や考え方も常に見直していかなければなりません。

 

「Disruption®︎:ディスラプション」手法は、「コンベンション(慣習)ービジョンーディスラプション (創造的破壊)」という3段階の具体的な手法です。

 

最初は必ず「コンベンション:先入観や根深い習慣から出来上がった既存の慣習、思考様式、行動様式」を疑うことから始め、そこから「ビジョン:ブランドや企業の未来像を規定する新しい方法」を考え出そうとする。それがあって初めて「ディスラプション(創造的破壊):コンベンションを疑うことから始め刷新されたビジョンに至る工程を促すアイディア」をもたらす。(The Ways to New)

 

4. ディスラプションは複雑な手法である

ディスラプションを複雑なものと考える人もいますが、実際にはそうではありません。
その本質はシンプルな解決策を見出すことにあります。

複雑であることがコンベンション(当たり前のこと)になっている現代社会で、シンプルさを生み出すことは、まさに「ディスラプション」が実現していることです。

 

「Disruption®︎:ディスラプション」はひとつの手法として、非常にシンプルな手順:「コンベンション – ビジョン – ディスラプション」をベースにしています。

 

このプロセスは、「何処へ向かおうとするのか?」という幾分直感的な方向(ビジョン)感覚を持って行なわれます。
ひらめき、インスピレーションを刺激する、幅広いツールやエクササイズで強化され続けています。

 

その上で、この手法は硬直的な考え方を避けるために、決まり切った手順にはならないように設計されています。

 

予め定義された戦略フォーマットというのは、往々にして型にはまった思考を作り出し、想像力を失わせるものだからです。

 

「Disruption®︎:ディスラプション」は想像力の触媒であり、多くの道を切り拓くガイドである。システムを憎む人のためのシステムである。ものの見方を逆転させる方法である。(Beyond Disruption)

 

「Disruption®︎:ディスラプション」が生み出すものはシンプルさです。

その手法は、TBWAの基本的資産であり最大の競争上の強みとして四半世紀以上に渡って洗練され進化し続けています

「”Simplicity is not simple: シンプルさを生み出すことは簡単ではない(注釈)」
サー・ジョナサン・アイブ Apple社最高責任者デザイン責任者(Chief Design Officer)

5 ディスラプション には特定の人にだけ可能な特殊な能力が必要である

「Disruption®︎:ディスラプション」は元々、

「固定概念を打ち破る広告を作る上で、偶然の思いつきやクリエイティブチームの天才的な閃き頼るべきではない」という信念の元に開発された方法論です。

 

固定概念を打破するような出来事は、多くの場合、偶然それが起きたように見え、どうやってそれが起きたのかを説明することができないものです。

 

運頼りになっているものを、システマティックなアプローチに変える

 
そのために、まず、正面から一般常識や古くからの習慣を打ち壊した企業を研究し、それらが「自らのブランドが何処にあり、どこに向かうのかという明快なビジョンによって、業界や市場のコンベンション(固定概念)打ち壊した」と分析しました。

 

その精神を持ちながら開発されたのが、コンベンションービジョンーディスラプションの3段階のプロセスを継続的に、システマチックに追求する「Disruption®︎:ディスラプション」手法です。

 

そして、与えられた課題に応じで、この3つの概念を結びつけているものを見つけ出し、いかに「ビジョン」が「コンベンション」と結びついているかを解き明かします。

 

そうすることで、「コンベンション」が「ディスラプション 」を生み出す重要な鍵となっていることを発見するのです。無からスタートすることはできない。クリエイティビティは真空からは生まれないのである。(Disruption)

 

(まとめ)

いかがでしたか?「ディスラプション 」という言葉の解釈が大きく変化してきたことがおわかりいただけたかと思います。

この言葉の解釈が、ビジネス界で、いつから、どのように変化していったのかも別の機会にまとめてみたいと思いますが、最後に、Jean-Marie Druがその著書で述べている「ディスラプション という言葉の定義」についてご紹介します:

「定義(To define)」という言葉の語源は「結末を付ける」ということを意味する。言い換えると制限や限界をもうけるという事である。これは「Disruption®︎:ディスラプション」 が目指している到達点とは正反対になる。(この手法における)ディスラプション とは、制限や限界を払いのけることであり、制限や限界から遠ざかることである。(Disruption: Overturning Conventions and Shaking Up the Marketplace)

このような「Disruption®︎:ディスラプション」の精神を大切にしてきたために、この言葉の解釈がどんどん意味合いを変えて広がってしまったのかもしれません。

※この記事は主に下記の書籍の内容から書き起こしたものです。
The Ways to New: 15 Paths to Disruptive Innovation, Jean-Marie Dru (2017)
Beyond Disruption: Changing the Rules in the Marketplace, Jean-Marie Dru (2002)
Disruption: Overturning Conventions and Shaking Up the Marketplace, Jean-Marie Dru (1996)

掲載記事に関する免責事項:記載内容は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解または代表する意見ではありません。
Disclaimer: The views and opinions expressed in this article are those of the authors and do not necessarily reflect the official view or position of Disruption®︎ Consulting.

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